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2022 Autumn/Winter

「ベニスに死す」(ルキノ ヴィスコンティ監督)
"Death in Venice" by Luchino Visconti

ノーベル文学賞作家、トーマス・マンの小説を官能的に映画化した巨匠ヴィスコンティ監督の名作。 ベニスで、ポーランド人の美少年タジオに魅了され、ストーカーと化した老作曲家アシェンバッハの人生の終焉を、マーラーの荘厳な調べにのせて紡ぎ出します。 映画のオーディションの際、「ベニスに死す」のキャスティングディレクターを務めたマルガリータ・クランツは、「ひと目で分かるほどヴィスコンティの全身が一瞬にして生き返った」と言います。同時にビョルンの崇高なまでのカリスマ性を称えつつも、あのような子供に細心の注意が必要だと言及していました。
「ベニスに死す」はヴィスコンティ監督にとって重要な作品であり、老いた男と少年の愛は問題だとプロデューサーは思い、少女を起用したがっていましたが、“タジオ”でなければならなかったとヴィスコンティは主張していました。
同性愛者であることを公言していたヴィスコンティ監督でしたが、周りのスタッフも同性愛者が多く、ヴィスコンティ監督は彼らにタジオを見てはならないと命令をしていました。ビョルンは知らないうちにヴィスコンティ監督の庇護下にあったのです。
ワールドプレミアで、ヴィスコンティ監督はビョルンのことを“世界で一番美しい少年”と語りました。その表現は生涯ビョルンについて回ることになりました。自分を守る方法も知らずに巻き込まれたビョルンは、カンヌにいた際ビョルンはよく知らないままゲイクラブに行き、人々の欲望に燃えた目、濡れた唇…異様な空間に戸惑い全てを忘れるかのように酒を飲みまくりました。
「ベニスに死す」以降ビョルンは“世界で一番美しい少年”であることの苦悩を抱えていました。ビョルンは性的象徴であり、オブジェであり、連れ歩くとクールな飾りでしかなかった、そのことに、当時は気づけず流されるままだったというビョルン。
私生活では結婚しても、父親になることに不安を感じ、自分のように寂しい思いはさせたくないと思いつつもアルコールに依存してしまいます。
また、ある日のこと、ビョルンは疲れ果て眠っていました。妻と娘は出かけ、その横には生まれたばかりの息子エルヴィンがいました。悲鳴で目を覚ますと、妻がエルヴィンを抱き抱えており、その唇は真っ青になっていました。何とか生き返らせようとしましたがかなわず。医者の診断では病名が言い渡されましたが、ビョルンは“愛情の欠如”だと言います。そしてビョルンは自滅の一途をたどります。
自分を守る術のない少年が大人によって本人が知らないうちに晒され、搾取され、気づけば生涯消えることのない大きな闇を抱えてしまっている残酷さが浮き彫りになっています。

ブラックレーベルでは、人々の欲望に飢えた目に晒されたビョルンを、絶対的存在として君臨していたヴィスコンティ監督の、権力の象徴である手枷足枷で拘束し、映画のセーラー服を纏わせています。

アートクチュールでは、その欲望の眼差しが、コートを突き抜け、ワンピースを突き抜け、下着にまで到達しているさまを衣服で描きました。

"Death in Venice" by Luchino Visconti / mixed media 「ベニスに死す」(ルキノ ヴィスコンティ監督) / ミクストメディア